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ご報告。福島

ご報告。福島

福島市在住の詩人及川俊哉さんにお会いする旅から昨日夜帰る。そして朝の知らせを親族よりの電話で知る。きのうは福島第一原発の通行許可証の必要なエリアの直前まで行った。やはり精一杯自分の仕事をしたい気持ちであるのは変わらない。しかしながら奮い立ち涙は溜まる。生きている。

及川さんの詩を知ったのは、拙店舗にて9月に開催いただいた、Cafe Lavanderia運営・出版社トランジスタプレスの佐藤由美子さん主催、ヤリタミサコさん著「Ginsberg speaks ギンズバーグが教えてくれたこと 詩で政治を考える」の出版にあたるイベントを行った機会であった。同著の中で紹介されていた及川さんの作品である「現代祝詞」を読み、思想・文学・歴史・生命としての人間の分別を超えて串刺しにするような営みの軌跡を感じることができた。同時に自分の分別の範囲での震災にかかわる表現は、近藤等則さんの「地球を吹く」と及川さんの「現代祝詞」となった。

ーーー近藤等則さんは、震災直後、生きた当事者の集う避難所に酒と女性を輸送しようとし(結局、酒だけの輸送になったそうな)、そして生きた当事者ではなく、亡くなった当事者に対して誰もいない海岸沿いの津波にさらわれた土地で、誰も聴くことのないエレクトリックトランペットを吹いた。

彼らの感じさせるものは、生きるという意味で、一回性の表現の速さ。奪い同時に失うことを伴う輪廻する速さではない。

もは 怠惰は 許されん

奪う詩から 捧げる詩へ

詩は変わらにゃいかん

Idle No Moreより、抜粋

それはことばのためのことばではない極めて現実的な営み。

それぞれ、現実では何ものの力によっても施しようのないものことをアミニズム的に神々とし、それらに鎮まり給うことを祈り伝える種の祝詞というこの地の人々の営み。その祈りの背景は、古代には雨乞い、近世には疫病、普遍的には天災であっただろうし、それぞれに土地の人によって神と成るものがあり高次の祈りを捧げて現実を生きてきたのだろう。及川さんの現代祝詞のはじまりは、原子力の源となるヨウ素、セシウム、ウラン、ストロンチウム、プルトニウムを神等とし、行為として福島第一原発の前で誰に聴かれるともなく音が捧げられることでなる。

個々に現代祝詞を読むことの必要性を感じるのは、それで及川さんや現代祝詞を広めたい、褒めたたえたいという意向からではもちろんなく、われわれ個々の生き方の問題に大きく関わることばの必要な問だからである。この土地の文学にとって避けることの許されない問である。

もちろん、及川さんの現代詩は創造主体として興味をそそるに充分だが、褒めたたえたいわけではないし、(控えめに言っても、彼のする)現代詩という表現はそういったものを放棄した地平にのみ存在し得るのではないかと考えている。ドミトリー・バーキンがトラック運転手であり続けたように、かの音楽家が賞を受け取ろうともしないかのように。こと賞においては与えられ、拒否されることも含んだ何らかの行為によって、半分うつろい、半分永遠である「現代性」は成されるのであろう。

批評にあたっては100年、1000年後にこの現代祝詞は「現代祝詞」となり、神話のなかにあると言われるかもしれない。しかし、それはすぐにでもなされなけらばならない。と複数に引き裂かれた現実によって訂正される。

複数に引き裂かれた割れた鏡である現実がその光をあつめられない、それにことばとして答えることができないことはあってはならないはずだ。

世界はすでに存在しているとは言えないかもしれないが、現実は複雑なままの固有性によりそれぞれのかたちが異なっているが存在はしている。音響に於いて同じ音を聴いているということがありえないのと似てくる。

土地の人間の欲望や生命への危機などの本質が不可避にもつくりだしたうつつを超越しようとするアラハバキの神への祝詞。そして、それを東京にて誰に聴かれるともなく捧げる現代祝詞としてのことばの音と文字とそれを司る人命としての現れ。福島市とわれわれの地のアナロジーを感じさせる名前の思想家も指摘する近代そのものである戦争への複雑さを放棄した単純合理利用の神道の地の悲劇を超越しようとする祝詞の現れ。そもそもの超越は、現れとして見られる飛び越えではなく、根源に遡求した結果の現れとして、圧倒的な普遍や永遠とのズレとしての強度となる。

及川さんの現代祝詞の仕事はもう既に完結しているのかもしれない。その源泉に触れることのできた者はそれをどう表現していくのか。話者である彼を含めた聴衆に対する、そういった問なのだといまはしておきたい。この問いによって人は鬱屈することなく好き勝手に関心のあることに向き合い続けられる。生命として生き続けられる。そんな問いだ。

今年の4月に高知県へ旅に行った。その途中のパフォーマンスにも感銘を受けた。今の世にもさまざまな人間がいる。自分も精一杯やろうと思う。

この機を用意してくれた佐藤由美子さん、ヤリタミサコさん、及川俊哉さん、池田慎さん、かおりに感謝。


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